松阪市図書館は平成21年度から5年契約で指定管理者制度を導入しており、今年度が最終年度に当たります。そして現在、松阪市は平成28年度における図書館全面改修をも視野に入れ計画を進め、図書館改革推進プロジェクトも8月7日に発足させ、基本構想の構築を目指しています。
松阪市図書館は今後の運営を考えていく上で、極めて大切な時期を迎えています。今、改めて今後の図書館のあり方を模索していく必要があるのではないでしょうか。
この度、私は松阪市議会会派の行政視察で、いち早く公立図書館に指定管理者制度を導入し、一定の成果を上げている千代田区立千代田図書館を訪館し、指定管理者による図書館運営の新たな可能性を探ってきました。これを基にこれからの松阪市における図書館運営というものを少し考えていきたいと思います。
千代田区は、わが街の図書館をわが街らしい図書館にしようと決めました(平成16年)。そのためにまず、そもそも千代田区とはどのような機能と特徴を備えた街なのか、国立情報学研究所へ調査委託し、自己分析を行うことから始めました。その結果、千代田区には企業や官庁に勤める多くのビジネスマンがおり(昼間の人口は居住者数の約17倍の84万人)、大学の数も12校と多く、さらには出版産業を地域産業に持ち、古書店も多いなど、他の地域とは違った特徴を有することが分かりました。
そこで、まず新しく生まれ変わる図書館の重要な機能を「千代田ゲートウェイ」と命名して、千代田区の地域情報の発信、“出版”に関する情報の発信、本の街神保町との連携による書籍の入手情報の発信を担う情報集積・発信型の施設として位置づけたのです。そしてこの機能を一つのコンセプトとし、さらに「ビジネスを発想するセカンドオフィス」、「区民の書斎」、「クリエイトする書庫」、「ファミリーフィールド」という4つコンセプトと合わせ、図書館のあるべき機能を合計5つの機能コンセプトにまとめ上げました。その上でこれらのコンセプトに沿ったサービスを提供できる企業を募集することにしました(平成18年)。
当然すべての機能・サービスを提供できる企業は存在せず、したがって、企業の専門分野を活かした業務分担を行うことで総合的に運営できるよう3社合同での受託となりました。代表企業は株式会社ヴィアックスで、サービス・総務・学校支援を担当、構成企業としてサントリーパブリシティサービス株式会社は読書振興センター・広報・コンシェルジュを、株式会社シェアード・ビジョンは館長・企画・システムを担当します。
千代田区の図書館は5つの機能コンセプトの下、貸出中心の図書館から「滞在型図書館」へと移行しました(平成19年)。決して貸出数を競おうとはしなかったのです(貸出数を増やそうとすれば新刊やベストセラーを多く取り揃えれば可能です)。このような運営方針は高い満足度(80%以上)にも表れているように、区民をはじめ、在勤・在学の人たちにも受け入れられ、すでに定着しつつあります。指定管理者制度導入後、入館者数が約26万人から77万人まで伸びたこともその証左です。
ただし、住民のニーズに応え、サービスの拡充を図っていくには、それだけ経費はかさみます。千代田区では学校支援のための司書の確保や広報の充実のための図書専門の広報担当者の確保を積極的に進めた結果、指定管理者制度導入後、図書館運営経費が3億2千万円から3億7千5百万円まで増えました。
したがって、何のための指定管理者制度なのか、更新を控える松阪市はもう一度考えなければならないのではないでしょうか。そしてこれから目指していこうとする図書館の姿はどのようなものなのか、松阪市の住民の望む図書館の機能はどのようなものなのか、改めて問うていく必要があるのではないでしょうか。
千代田区が行ったように、松阪市もまず、松阪市とはどのような機能と特徴を備えた街なのか自己分析することから始めてはいかがでしょう。そしてそれらを基に、多くの住民も交えながら新たな図書館のコンセプトを明確にしていってはいかがでしょう。
新たな図書館を目指し、すでに図書館運営の成功している自治体はいくつもあります。しかし、それらはその地域だからこそ成功したのだと冷静に判断することも大切でしょう。わが街の図書館はわが街でしか成り立たない、そんな図書館であっても良いのではないか、と少し思うようになりました。